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2007/01/26 (Fri) 情事の終り

End_of_the_affair_SK51354.jpg
「情事の終り」


 ときどき私は、私が彼を愛していること、いつまでも愛しているだろうということを、彼に納得してもらおうと骨を折るのがいやになってしまうことがある。
 もし私たちの恋に終わりがあるものとすれば、彼はそうなった時に自分をとりまく砂漠が恐ろしくてたまらないのだ、私にはそれがわかっているのだけれど、わたしもそっくり同じ気持ちでいることを彼のほうでわかってくれない。

 彼は、過去、現在、未来をかまわず嫉妬する。彼の恋は、まるで中世の貞操帯のようだ。自分が そこに、私のそばに、私のなかに、いるのでなければ、決して安心しないのだ。私が彼を安心させてあげることさえできたら、ああ、それさえできたら、私たちは、平和に、幸福に、愛しあうことができ、砂漠は遠のいて、見えなくなってしまうだろうに。おそらく一生涯でも。
 もし神を信じることができたら、この砂漠をなくせるものだろうか。
 私はいつも他人から好かれ、崇拝されていたい女だ。誰か男のひとに責められたり、友達を失ったりすることがあれば、たまらない不安を感じる。 私はあらゆるものを、あらゆるとき、あらゆるところで、ほしがる。私は砂漠を恐れている。神はお前を愛する、神こそは総てだ、そう教会では言われる。それを信じる人たちは、崇拝されることを求めない、男と寝ることを求めない、安心している。けれど私は信仰をつくりだすことはできない。

 彼は、ほかの女をこれほど愛したことはないと、よく私に言う。私がそれを信じるのは、そっくり同じように私も彼を愛しているからだ。もし私が彼を愛することをやめたら、彼の愛を信じることもなくなるだろう。もし私が神を愛したら、そのとき私は、神の私に対する愛を信じられるだろう。
 愛を求めるだけでは足りないのだ。私たち人間はまず愛さねばならない、それなのに私はどのように愛すべきかを知らないのだ。でも私はそれを求める、どんなに私は求めているだろう。

 *  *  *  *  *

 私を、私を、私をーーーこのほかのお祈りの言葉を知っていたらと思います。
 私をお助け下さい。私をもっと幸福にして下さいませ。はやく私を死なせて下さいませ。
 私を、私を、私を。

 私に私を忘れさせて下さいませ。
 愛する神様、私は愛そうとして参りましたのに、こんなひどいことになってしまいました。もし私があなたを愛せましたら、どのように彼らを愛したらよいかもわかりましたでしょう。

 私に愛する道をお教え下さい。
 どんな苦しみをも怖れませぬ。私が堪えられないのは彼らの苦しみでございます。私の苦しみはいつまで続いてもかまいません。彼らの苦しみだけなくして下さいませ。
 愛する神様。もしあなた様が少しの間でも十字架から降りておいでになり、代わりに私をあそこへかけて下さることができましたら。もしあなた様のように苦しむことが私にできましたら、私もあなた様のように癒すことができますのに。

joyujinoowari.jpg image1985.jpg

~イギリスを代表する作家、グレアム・グリーンが1951年に発表した作品、『情事の終り』(原題・The End of the Affair)(田中西二郎・訳)の中の、ヒロイン・サラァの日記より、引用~
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

★作者:グレアム・グリーンについて

1904‐1991。イギリスの教育者の家庭に生れる。大学卒業後、カトリックの学生と結婚して改宗。ジャーナリストなどを経て、’29年処女長篇となる『内なる私』を発表。’40年、政治権力と宗教の対立を描いた『権力と栄光』で作家としての地位を築く。’51年に発表された『情事の終り』は彼の名声を全世界的なものとした。『第三の男』は映画化された。

★この作品の映画化

○その1 「情事の終り」 1955年 アメリカ 主演:デボラ・カー
http://www.walkerplus.com/movie/kinejun/index.cgi?ctl=each&id=4455
End_Of_The_Affair_1956_DVD.jpg

○その2 「ことの終わり」 1999年 イギリス 主演:レイフ・ファインズ ジュリアン・ムーア
http://www.walkerplus.com/movie/kinejun/index.cgi?ctl=each&id=31968
jp000604.jpg

★簡単な感想

タイトルを見ると、恋愛の話のように見える。でも、読み終えた時に、これは愛の苦しみの果ての信仰の話なのだとわかる。 
高級官吏の妻サラァは、戦争の爆撃のさなかで、作家・ベンドリクスとの不倫の恋のなかにいる。爆弾が落ち、ベンドリクスがドアの下敷きになって死んだかのように見えた時、それまで神を信じられなかった彼女は初めて祈る。
「神様、彼を生かして下さい。そうすればあなたを信じます。私は彼を愛している。けれど、あなたが彼を救ってくれるならば、永遠に彼をあきらめます。」
・・・そして・・・ベンドリクスは生きていた。
サラァは神にしてしまった約束にしたがって、彼と別れなくてはならない・・・。
この時から、「彼の命を救ってくれれば、あなたを信じ、彼と別れる。」という神との約束の苦しみが始まる・・・。
彼女は神との約束を守り、愛するベンドリクスとの関係を一方的に終わらせる。
情事の終わり、とは、すなわち信仰・神への愛の道の始まりだった。
終わりのある人間同士の愛に対して、永遠である神の愛。
サラァとベンドリクスの情事という関係が終わったときからが、サラァの真の愛の始まりとなっていく。

「私たちの愛が尽きたとき、残ったのはあなただけでした。彼にも、私にもそうでした。」

これはサラァの日記の一節。ここで言う「あなた」とは、神様のこと。
自分の心と向き合い、愛について、そして神について真剣に揺れつつ悩みながらも、最後には神を完全に信じて死んでゆくサラァを、私は好きになった。そして、少しうらやましくも思った。
特に好きな部分は、中盤、サラァの日記の部分。ここを読むと、等身大の彼女の心の葛藤が、まるで自分のことのように感じられてせつなくなる。

日記・・・この中に、サラァは、精一杯に包み隠さずに自分の正直な心を刻んでゆく。
日記・・・とは何だろう。と、思わず考えてしまった。
一冊の自分以外の誰も見ることのないノートに、書いていくものだったのだろう、本来は。
ここ(ブログ「Wonderful World」)は、私の日記帳のようなもののはずだけれども、私はとてもサラァのようにヒリヒリするような生身の心をすべてむき出しにして書くことはできない。
ここだからこそ書きたい、見てもらいたい、共有してもらいたい、と思うことがあり、私は自分自身を発信していくことが、基本的に好きなのだと思う。
でも、ときどき、知り合いも多く見て下さっているここだからこそ書けないこともある。
書き付けていく日々は私の日々の、そして心の、リアルタイムの記録であるはずだけれども・・・。記号のようにちりばめられた真実の断片を読めば、その時の自分の心を、今は思い出すことができるけれど、時が経てば経つほどに、文字に書かれなかった真実はこぼれ落ちて記憶の彼方に沈んでいくだろう。
それでも、やはり、生活の、そして心の、すべて、すべてを書くことはできない。
そもそも日記とは、公開することを前提に書かれるものなのだろうか・・・。なんて、私のブログに対するスタンスが漠然としているので、こんなことを思ったりするのだろうか。

映画や本や音楽の感想を書いても、それはやはり、総て私自身の現在の心と、直接にリンクしている。

そのようなわけで、1月の読書会のために読んだこの作品『情事の終り』も、「読書会でこんな本を読みました♪」という、私の日々の記録でもあり、また、この作品の中からどこを引用したかによって、今の私の心には何が響くかという心の状態の記録にもなっている。

この作品で描かれていたテーマ。
愛するということ。
そして、神を信じることの困難さ・・・それでも「何か」を求めずにはいられない心・・・。
これらはまさに、今、現在の私自身のテーマでもある。

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レイフ・ファインズ
レイフ・ファインズ大使としてキルギスタン訪問中に撮影レイフ・ファインズ(本名Ralph Nathaniel Fiennes)は 1962年12月22日、イギリスのサフォークで生まれた。名前は'Ralph'(ラルフ、ラーフとも読む)と綴るが、Rafe(レイフ)と発音する。過去、ト //まひろの部屋 2007/02/22 04:23

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Author:mar(マル)
☆大切なこと
「真・善・美」な道を求めて日々成長すること。

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「世界と人生を愛すること 
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(ヘルマン・ヘッセの言葉) 

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・いい映画や、美術、旅行も好き。
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・色々考えることが好き。
・文章を書くことも好き。

☆好きな本
・ヘッセ『デミアン』『春の嵐』
・リルケ『若き詩人への手紙』
・高村光太郎『智恵子抄』
・三浦綾子『道ありき』『氷点』『泥流地帯』『塩狩峠』
・倉田百三『出家とその弟子』
・ドストエフスキー『白痴』『カラマーゾフの兄弟』『罪と罰』
・ロレンス『チャタレイ夫人の恋人』
・トーマス・マン『トニオ・クレーゲル』
・ミラン・クンデラ『存在の耐えられない軽さ』
・宮沢賢治『銀河鉄道の夜』
・ゲーテ『若きウェルテルの悩み』
・サンテグジュペリ『星の王子さま』
などなど。

☆好きな映画

『初恋の来た道』『ポンヌフの恋人』『ローマの休日』『アメリ』『父と暮らせば』『ノッティングヒルの恋人』『ライフイズビューティフル』『ベティーブルー』『存在の耐えられない軽さ』『嵐が丘』『LOVERS』『汚れた血』『イングリッシュペイシェント』『エトワール』『風と共に去りぬ』など

☆好きな音楽

・グレン・グールドの弾くバッハ(特に『ゴールドベルク』)
・マドレデウス

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